中国半導体産業動向と日本半導体産業の問題点について 三重野文健
概要
13次5カ年計画、中国製造2025において、半導体産業は社会インフラ、産業インフラ、国防インフラと位置付けられている。2015年5月8日に国務院が公布した中国製造2025[1]は、中華人民共和国の成立100年までに3度行われる10カ年計画における最初10年の製造強国戦略実施の行動綱領である。重点分野の一番目に次世代情報技術が挙げられており、その中でも「集積回路と専用設備」すなわち半導体産業が特に重要視されている。コアとなるチップが、手に入らなければ、次世代情報技術もIoTも成り立たず、また、他国に大きく依存すれば機密情報流出の危険性さえあり、「中国製造2025」の方針に反してしまう。その現実的方策として、半導体産業への投資基金の創設、製造工場建設、半導体関連企業へのM&Aが挙げられる。特に、製造工場建設は、2020年までに国内外の12社が12インチファブを中国内に新設し、投資総額6兆円以上にのぼる。また、これら半導体製造工場に欠かせない装置産業においても、内製化を促進させており、中国企業のグローバル展開も推進されている。
これからの社会インフラ、産業インフラ、国防インフラの基礎を作る半導体製造において、現在、日本は低迷している。かかる状況において、中国は政府の主導の元に、着々と前進しようとしている。日本と中国の半導体産業を比較考察することにより、建設的な提言を中国の現場から行うことは、日本の半導体産業発展の一助となり、延いては日本の発展に寄与するものと確信する。こういう問題意識から一昨年は、台湾、韓国、シンガポールとの比較、昨年は中国半導体の活発な投資動向とその動機を示したが、その後の状況の変化を踏まえ、日本半導体産業低迷の原因解明の観点からの考察が必要である。
1.中国半導体産業の最近の動向
政府が半導体産業を支える動機は以下であり、内製化率目標も掲げられている。
経済上の理由: 半導体輸入額が、石化燃料輸入額を超えている。AI、IoT時代における社会インフラ、産業インフラの中核であるという認識。
国防上の理由: ビックデータ、AI、自動運転、IoT時代における頭脳であるCPU、GPU及びサーバーセンターのメモリーが外国製(米国、韓国、台湾)では、セキュリティが保たれないし、他国に遅れてしまう。
中国における大基金を中心とした半導体投資は活発であり、かかる投資が奏功する場合、内製化率目標とされる40%(2020年)、70%(2025年)を達成する可能性がある。先端ロジック製品のみならず、3DNAND、DRAMといった先端メモリー製品もその計画内にある。因みに、米国も中国と同様の動機で、産業半導体の自国製造能力を保持、増強している。ロジック;Intel、 メモリ;Micron、アナログ;TI、ファウンドリ ; Global Foundries、SiC ; Creeなどとすべての半導体製品に渡っている。また、TSMC(台湾)、サムソン(韓国)も米国内に工場がある。また、EUにおいても、EU内に半導体工場を持つ重要性が再認識されている。
また、製造設備及び製造材料も内製化が進み、対外的競争力を向上させるであろう。現時点において、日本における製造設備及び製造材料は、世界的競争力をある程度は保ってはいる。しかし、今後の中国での内製化志向により、そのシェアは徐々に減っていくと考えられる。そして、日本の製造設備、材料メーカーを主導する立場にあるデバイスメーカー及びファウンドリ(現在は米国インテル、韓国サムソン、台湾TSMC)においても、中国ファウンドリ(SMIC、HLMC、YMTC)がその一角に食い込むと予想される。
最近の中国半導体産業の特徴は以下であり、目標に向けて進行していることが窺える。
① ロジックにおける28nmの市場導入、14nmの開発、7nmの開発開始
② メモリーにおける3DNAND試作品成功
③ 半導体製造工場(メモリ、ロジック)への大規模投資
④ 米国との半導体摩擦 M&Aの活発化と米国による阻止
そして、スーパーサイクルと呼ばれるIoT、AI、ビックデータを背景にした半導体好景気に入ったことも強い追い風となっている。但し、米国との半導体摩擦を生じる懸念も指摘されている。[2 ]
一方、日本の半導体製造は、唯一のメモリー製造会社を失うかもしれない状況に陥っている。[3]
2.日本における半導体製造の重要性認識
東芝セミコンダクターの売却先として、政財界で技術流出防止を求める声が強まり、当初は消極姿勢だった革新機構が買い手候補に急浮上した。[4] 世耕弘成経済産業相は、「政府が介入をして何かを決めるということはあり得ない」と語った。[5]
中国における政府系投資と比較して、目的、投資規模が大きく異なる。半導体産業に対する政府の認識の違いが大きい。
3.日本における問題点
今後のパソコン、スマートフォン、或いは、それに変わりうる電子デバイス製品において、日本が頂点に立つことはこのままでは不可能と予測される。中核部品である半導体が他国製造では、自社、自国ではコントロールが効かず、請負側に優先順位を落とされ、機会損失、高い価格設定などとなり、競争力を落としてしまう。この問題は、広く波及する。既に「日本からは最先端チップは生まれない。」と指摘する声もある。韓国、台湾、米国から最先端スマートフォン向け10nm製品が出荷されつつある現状において、日本からは先端10nm以降の製品が出される気配がない。(2017年5月26日現在)[6]
最先端半導体製造工場を持たない日本は、製品開発において大いに不利であることを認識するべきである。メモリーは、海外からの輸入とエルピーダなどの国内にある海外メーカーに頼る。(但し、現時点で東芝は存在する。)最先端ロジック(CPU, GPU)は、インテル、AMD、Qualcomm、Nvidia等の米国系に頼る。また、ファウンドリは、TSMC、UMC、Global Foundries、SMICに頼る。かかる状態においては、供給量、納期、価格の問題が大きくなる。今後10年は、大いなる需要が見込まれている半導体製造(ゴールデンサイクル)においては、供給元によるコントロールとなる。どこにいくらで売るかは、日本の顧客はコントロールが効かない。特に、ファウンドリにおいては、顧客は峻別されており優先順位が明確となっている。即ち、民族系か否か(或いは政府の志向か否か)、ボリュームは見込めるか、価格は見込めるか、技術を高める相手がどうか等により優先順位が決まる。この観点で、ファウンドリに頼る日本メーカー、ルネサス、東芝、ソシオテック等の順位は高く無い事を認識すべきである。
社会インフラ構築時の問題;社会インフラ構築の基礎となる半導体が、納期を逃し、且つ、高く買わされることになり、社会インフラ構築自体が遅れる。そして、国際競争には勝てず、国内インフラだけに留まり、高いモノとなる。また、様々な信頼性要求も満たさなければならない。要求される仕様、信頼性が様々であると、対応するファウンドリも限られる。
産業インフラ構築の問題;信頼性が重要視され、且つ、対コスト効果が問題視される。納期、価格、信頼性に見合う半導体を海外ファウンドリから調達する事は、既にハンディを負っていることになる。
国防インフラ構築の問題;機密漏えい防止、信頼性の観点で、海外ファウンドリ、海外メモリメーカー品に頼るのは、大いに危険である。ビックデータを扱うデータセンターは、国内に置かなければいけない。そして、データサーバーのLSIは、国産であるべきだ。輸入に頼るLSIにはバックドアが仕掛けられている可能性は否定できない。ドローンには、20個以上のLSIが搭載されるが、ほぼ中国製品である。
4.日本半導体産業はどうすべきか
第一に、国内に競争力のある半導体製造拠点を持つことである。FinFET世代(22nm、14nm、10nm)の量産、そして7nm以降の開発量産対応可能な300mm/450mmファウンドリの、国内構築が望ましい。また、国内顧客をサポートする為の、先端製品企画、設計グローバルカンパニーの創設が併せて望ましい。これらにより、地理的、コミュニケーション、民族系という面において有利となり、国内顧客の製品開発ループが加速され、且つ、深い信頼関係による相互戦略が可能となる。中国において、人件費は高騰しており、幹部エンジニアにおいてはもはや日本以上である。また、先端装置、材料は、日本、米国に依存しており、日本国内でのそれらの調達及びベンダーとの協調関係においても、日本国内工場は有利である。特に450mm半導体製造装置は、ASMLのEUVL以外は完成されており、日本ベンダーと国内半導体拠点との協調により有利に展開が可能である。米国、韓国、台湾、中国での投資が、活発化する前に製造拠点を日本国内に設けるべきである。
第二に半導体装置製造においては、今後の工場増加に対応する為に、すべての能力をあげる必要がある。特に、レガシー製品の中国国内製造、部品調達を志向することにより、価格競争力、装置供給能力を高めることができる。また、現地の半導体装置メーカーが、世界で台頭する前に現地との協力関係を構築することも望ましい。現地の半導体装置メーカーの必要性が薄らぐ効果と、米国、欧州装置メーカーに対する競争力を上げることができる。
第三に半導体材料製造についてであるが、300mmウェーハは、信越、SUMCOの日本の2強状態にあり、IoT、AIに向けて供給能力が足りず工場を増強している状況である。中国内においては、国家プロジェクトである半導体産業の育成に向け工場設立、稼働が活発になっている。今後、徐々に現地製品が立ち上がり、採用が増えていくだろうと予測される。現在まで、日本のメーカーは良い位置にいるが、中国生産展開を視野にいれておいた方が良いであろう。
参考文献
[1] CRDS 「中国製造 2025」の 公布 に関する国務院の通知全訳 2015年7月15日 https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2015/FU/CN20150725.pdf#search=’%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E8%A3%BD%E9%80%A0%EF%BC%92%EF%BC%90%EF%BC%92%EF%BC%95′ (2017/8/1)
[2]The Wall Street Journal. – 2017年7月31日
中国が狙う半導体覇権、米中ナショナリズム対決 (2017/8/1)
http://jp.wsj.com/articles/SB10961650382794263540104583300922975089526
[3] 東芝、半導体売却でWD・鴻海と交渉開始 銀行団に説明=関係筋(2017/8/5) http://jp.reuters.com/article/toshiba-honhai-idJPKBN19W0WB
[4] 「損失は堂々と公表を」 KKRジャパン・斉藤会長 官民ファンドの実像
日本経済新聞 電子版 (2017/8/6)
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO19549150S7A800C1000000/
[5] 世耕経産相、東芝の半導体売却「政府の介入あり得ない」(2017/6/27) http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL27HL9_X20C17A6000000/
[6] 清水洋治 この10年で起こったこと、次の10年で起こること(16):ムーアの法則は健在! 10nmに突入したGalaxy搭載プロセッサの変遷 (2017/8/10)
http://eetimes.jp/ee/articles/1705/26/news010.html


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