中国半導体産業動向と日本半導体産業の問題点について

三重野投稿論文図20180320

本論文は、2017年に行われた中国経済経営学会 全国大会にて報告した内容を元に、作成しました。お仕事の参考となれば幸いです。

 

概要

2015年5月8日に国務院が公布した中国製造2025[1]は、中華人民共和国の成立100年までに3度行われる10カ年計画における最初10年の製造強国戦略実施の行動綱領である。重点分野の一番目に次世代情報技術が挙げられており、その中でも「集積回路と専用設備」すなわち半導体産業が特に重要視されている。コアとなるチップが、手に入らなければ、次世代情報技術もIoTも成り立たず、また、他国に大きく依存すれば機密情報流出の危険性さえあり、「中国製造2025」の方針に反してしまう。その現実的方策として、半導体産業への投資基金の創設、製造工場建設、半導体関連企業へのM&Aが挙げられる。特に、製造工場建設は、2020年までに国内外の12社が12インチファブを中国内に新設し、投資総額6兆円以上にのぼる。[2][3] また、これら半導体製造工場に欠かせない装置産業においても、内製化を促進させており、中国企業のグローバル展開も推進されている。中国は政府の主導の元に、着々と前進しようとしている。

次世代情報技術は、各国で重点項目として掲げており、「Industry4.0」「Sciety5.0」などと称せられている。[4]  IoT、ビックデータ、人口知能、ロボット等の技術と「超スマート社会」の産業リンケージは、半導体を核として以下から成る。

半導体装置/半導体材料半導体製造・設計基幹ソフトウエア産業用端末・個人端末製造アプリケーションソフトウエアシステムサービス

 

産業用端末・個人端末即ち、サーバー、パーソナルコンピュータ、スマートフォンを例に取ると、日本の場合は、半導体装置/半導体材料は、日本国内で製造し調達が可能であるが、キーデバイス以降は海外から調達しており、特に中国からの輸入に大きく頼っている。[5][6] 一方の中国は、半導体装置/材料を大きく日本に依存している。そこで、中国は中国製造2025年を打ち出し、産業チェーンにおいてボトルネックの無いよう国内で製造できるようにしようと動いている。このように、これからの「超スマート社会」を支える産業リンケージは、日中間において強い相関関係にある。そして、「超スマート社会」を実現する上で、切っても切れない関係にある。中国の半導体産業の動向を注意深く観察していくことは、極めて切実で重要な問題と言えるだろう。

日本においては、政府が「Industry4.0」「Society5.0」[i]を主導している。[7] しかし、これからの社会インフラ、産業インフラ、国防インフラの基礎を作る半導体製造において、現在、日本は低迷している。日本と中国の半導体産業及び半導体を核とした産業において、日本と中国は深く関わり合う。これらを比較考察することにより、建設的な提言を中国の現場から行うことは、日本の半導体産業発展の一助となり、延いては日本の発展に寄与するものと確信する。

はじめに

 中国と日本の半導体産業は、切っても切り離せない深い関係にある。近年の中国政府は、半導体産業において一国内にバリューチェーンを構築することを目指している。かかる状況下において、日本の半導体産業、延いては「Industry4.0」「Society5.0」に、大きな影響を与えるだろう。そこで、本論文では、半導体を核とする発展、及び中国の半導体産業の状況と今後について考察し、日本の半導体産業の方策を示したい。

中国政府が半導体産業を支える動機は以下であり、内製化率目標も掲げられている。

経済上の理由: 半導体輸入額が、石化燃料輸入額を超えている。AI、IoT時代における社会インフラ、産業インフラの中核であるという認識である。かつて、スーパーコンピュータ開発において、米国製CPU[ii]の輸出制限をされ開発遅延を招いた経緯がある。[8]

国防上の理由: ビックデータ、AI、自動運転、IoT時代における頭脳であるCPU、GPU[iii]、APU[iv]及びデータセンターのメモリーが外国製(米国、韓国、台湾)では、セキュリティが保たれないし、他国に遅れてしまう。

中国における大基金を中心とした半導体投資は活発であり、かかる投資が奏功する場合、内製化率目標とされる40%(2020年)、70%(2025年)を達成する可能性がある。先端ロジック製品のみならず、3DNAND[v]、DRAMといった先端メモリー製品もその計画内にある。因みに、米国も中国と同様の動機で、産業半導体の自国製造能力を保持、増強をしている。ロジック;Intel、 メモリ;Micron、アナログ;TI、ファウンドリ ; Global Foundries、SiC[vi] ; Creeなどとすべての半導体製品に渡っている。また、TSMC(台湾)、サムソン(韓国)も米国内に工場がある。また、EUにおいても、EU内に半導体工場を持つ重要性が再認識されている。

これらIoT, ビッグデータ、人口知能、ロボット・センサーの技術的ブレークスルー 及び「超スマート社会」の産業リンケージは、以下から成る。

 

半導体装置/半導体材料半導体製造・設計基幹ソフトウエア産業用端末・個人端末製造アプリケーションソフトウエアシステムサービス。

 

産業用端末・個人端末即ち、サーバー、パーソナルコンピュータ、スマートフォンを例に取ると、日本の場合は、海外から調達しており[5][6]、特に中国からの輸入に大きく頼っている。一方の中国は、半導体装置/材料を大きく日本に依存している。そこで、中国は中国製造2025年を打ち出し、ボトルネックの無いように国内で製造できるようにしようとしている。[9] このように、産業リンケージは、日中間において強い相関関係にある。そして、「超スマート社会」を実現する上で、切っても切れない関係にある。中国の半導体産業の動向を注意深く観察していくことは、極めて切実で重要な問題と言えるだろう。

また、中国は製造設備及び製造材料も内製化を進め、対外的競争力を向上させつつある。現時点において、日本における製造設備及び製造材料は、世界的競争力をある程度は保ってはいる。しかし、今後の中国での内製化志向により、そのシェアは徐々に減っていくと考えられる。そして、日本の製造設備、材料メーカーを主導する立場にあるデバイスメーカー及びファウンドリ(現在は米国インテル、韓国サムソン、台湾TSMC)においても、中国ファウンドリ(SMIC、HLMC)が存在感を増しつつある。

最近の中国半導体産業の特徴は以下であり、目標に向けて進行していることが窺える。

  1.         ロジックにおける28nm[vii]の市場導入、14nmの開発、7nmの開発開始
  2.         メモリーにおける3DNAND試作品成功
  3.         大規模投資による半導体製造工場(メモリ、ロジック)立ち上げ
  4.   半導体製造装置の海外輸出[viii]
  5.         米国との半導体摩擦  M&Aの活発化と米国による阻止

そして、スーパーサイクルと呼ばれるIoT、AI、ビックデータ、自動運転を背景にした半導体好景気に入ったことも強い追い風となっている。但し、米国との半導体摩擦を生じる懸念も指摘されている。[10]

一方、日本の半導体製造は、唯一のメモリー製造会社を失うかもしれない状況に陥っている。[11] 東芝セミコンダクターの売却先として、政財界で技術流出防止を求める声が強まり、当初は消極姿勢だった革新機構が買い手候補に急浮上した。[12] 世耕弘成経済産業相は、「政府が介入をして何かを決めるということはあり得ない」と語った。[13]

中国における政府系投資と比較して、目的、投資規模が大きく異なる。半導体産業に対する政府の認識の違いが大きい。

今後のパソコン、スマートフォン、或いは、それに変わりうる電子デバイス製品において、日本が頂点に立つことはこのままでは不可能と予測されている。 [14] 最先端半導体製造工場を持たない日本は、「Industry4.0」「Society5.0」の中核を成す製品開発において大いに不利であることを認識するべきである。メモリーは、海外からの輸入とエルピーダなどの国内にある海外メーカーに頼る。(但し、現時点で東芝は存在する。)最先端ロジック(CPU, GPU)は、インテル、AMD、Qualcomm、Nvidia等の米国系に頼る。また、ファウンドリは、TSMC、UMC、Global Foundries、SMICに頼る。かかる状態においては、供給量、納期、価格の問題が大きくなる。今後10年は、大いなる需要が見込まれている半導体製造(スーパーサイクル)においては、供給元によるコントロールとなる。どこにいくらで売るかは、日本の顧客はコントロールが効かない。特に、ファウンドリにおいては、顧客は峻別されており優先順位が明確となっている。即ち、民族系か否か(或いは政府の志向か否か)、ボリュームは見込めるか、価格は見込めるか、技術を高める相手がどうか等により優先順位が決まる。この観点で、先端ファウンドリに頼る日本メーカー、ルネサス、東芝、ソシオテック等の順位は高く無い事を認識すべきである。半導体の問題は、インフラ構築に大きな影響を与える。

社会インフラ構築時の問題;社会インフラ構築の基礎となる半導体が、納期を逃し、且つ、高く買わされることになり、社会インフラ構築自体が遅れる。そして、国際競争には勝てず、国内インフラだけに留まり、高いモノとなる。また、様々な信頼性要求も満たさなければならない。要求される仕様、信頼性が様々であると、対応するファウンドリも限られる。

産業インフラ構築の問題;信頼性が重要視され、且つ、対コスト効果が問題視される。納期、価格、信頼性に見合う半導体を海外ファウンドリから調達する事は、既にハンディを負っていることになる。

国防インフラ構築の問題;機密漏えい防止、信頼性の観点で、海外ファウンドリ、海外メモリメーカー品に頼るのは、大いに危険である。ビックデータを扱うデータセンターは、国内に置かなければいけない。そして、データサーバーのLSIは、国産であるべきだ。輸入に頼るLSIにはバックドアが仕掛けられている可能性は否定できない。

 

米国では、半導体におけるリーダーシップを確保するために、中国企業による半導体企業買収を阻止する動きが活発になっている。では、日本半導体産業はどうすべきかであろうか。日本は先進国として半導体製造を確保するべきなのか、半導体産業のバリューチェーンは一国(或いは一経済単位)で内部完結的にそろえるべきか、それとも現状のように今後もグローバル展開に委ねるべきか。

 第一に、国内に競争力のある半導体製造拠点を持つことである。第二に半導体装置製造においては、今後の工場増加に対応する為に、製造能力をグローバル展開により増強する必要がある。第三に半導体材料についてであるが、300mmウェハーは、信越、SUMCOの日本の2強状態にあり、旺盛な需要に供給能力が足りず工場を増強している状況である。現在まで、日本のメーカーは良い位置にいるが、中国生産展開を視野にいれておいた方が良いであろう。

 

1.半導体、デバイスの進化について

著者は、半導体業界に37年間おり、その間、半導体企業の勃興について、業界内で議論を行ってきた。著者は、それらの議論を集約し「Zの経験則」とした。Zの経験則は、以下と説明できる。

「或る経済単位(国、地域、会社等)が活動を開始し経済的終息に至る。AからZに、すると、新たな経済単位が、その活動(事業)を引き継ぐことにより、指数関数的な発展は継続する。」

一種の「雁行形態論」との見方もできるが、「雁行形態論」は後進国が先進国に追いつこうとする発展プロセスである。[15] 「Zの経験則」においては、後進国から先進国への産業移転という定義は用いておらず、指数関数で表されるムーアの法則[ix]に従うことができる次の「経済活動組織」に、引き継がれると定義される。半導体の進歩はとても早く、「1.5年から2年でトランジスタの価格を半分にし続けている」のである。他の産業には見られない特異性である。そして、半導体は、用途が多岐に渡り、その為に、一口では言い表しにくい製品でもある。簡単に言えば、「レガシー」[x]、「マチュア」[xi]と「最先端」技術に分けることができるだろう。ロジックデバイスを例として示す。「レガシー」とは、2018年現在ではデザインルール90nm以前の技術を指す。「最先端」は、28nm以降を指し、その間は、「マチュア」と称される。「レガシー」は雁行形態論のように低賃金国へ引き継がれる。しかし、近年の米国の半導体製造回帰[16] は、低賃金国への移行ではなく「雁行形態論」とは異なる。半導体という製品は、「低コスト化」というファクターだけでは無く、「高性能化(低消費電力化、高速性能化、高密度化)」というファクターも存在し続けるのである。半導体産業が、他の既存産業と根本的に異なるのは、ムーアの法則(低コスト化と高性能化)という経験則の存在であり、ムーアの法則を守り続ける為には、他の既存産業には無い「より知識集約型、より産業集約型」産業として研究開発し続けなければならない。その為に、経済的支援が不可欠なのである。

1980年代には、日本においてもCPUの開発製造が、活発であった。それは、1990年代以降で、ファウンドリという形で台湾が、また、IDMとして韓国が台等してきた。そして、日本におけるCPU製造はすたれ、2018年現在では、中国設計、台湾製造のCPUや韓国製造のCPUが、米国IntelのCPUと肩を並べている。

 図1には、電子デバイスにおける先端最終製品と「Zの経験則」を、リンゴの木を模して示した。ムーア則は、p=2E(n/1.5)で表され、半導体製品のパフォーマンスpは1.5年毎に2倍になる。即ち、時間と共に指数関数的に、性能当たりの価格がどんどんと下がっていく。これを、図1の地面の部分とした。この地面の部分を指数関数的にどんどんと掘り下げているのが、半導体製造会社、半導体製造装置及び材料メーカーである。

「Zの経験則」は、「或る経済単位(国、地域、会社等)が活動を開始した当初は、初期投資、未成熟な技術、技術者等により、ムーア則には乗ることができない。やがて、減価償却の終わった設備群、研究開発の充実、経験値を高めた技術者、経営者等により、ムーア則に乗って製造することが可能となる。しかし、高コストの研究開発費負担や最先端設備投資の負担に耐えられず、企業破綻をきたす。日本のCPUのように、国単位で撤退する事例もある。経済的限界により、事業終息に至るわけである。まるでアルファベットのAからZに、すると、新たな経済単位が、その活動(事業)を引き継ぐことにより、指数関数的な発展は継続する。」

「レガシー」及び「マチュア」半導体製造は、米国→日本、ヨーロッパ→韓国、台湾、シンガポール→中国と展開しながら[17]、未だにムーア則を守り続けている。空色の線で示しているのが、或る経済単位の活動で、第一次変曲点を迎えてパフォーマンスが指数関数的に伸びる。しかし、その後、主に経済的理由により、頭打ちとなり、第二次変曲点を迎えることにより終息する。この形はZを右と左から引っ張るとできる形に似ていることからもZの経験則と言われる。そして、AからZという終息を迎えると、またAから始まる。つまり、ムーア則という言わば業界の約束事を守ることができる次の経済単位が登場するのである。そして、ムーア則は形を変えながら、引き継がれていく。

図2左には、この先端最終製品とアプリケーションの関係を示す。オープンソース、ネットワーク外部性[18]を取り入れたあたりが、一次変曲点となろう。このようにアプリケーションも指数関数的に伸びていくであろう。

この変化にとても重要なハード系のファクターは、ムーア則以外では、ユーザーインターフェイスの変革であろう。CUI(Character-based User Interface)[xii]から、現在主流のGUI(Graphical User Interface)[xiii]となり、スマートフォンは世界中広く行き渡った。そして、パソコンをも凌駕しつつある。[19]

社会インフラ変革の事例として、支付宝(アリペイ)によるキャッシュレス社会の到来を挙げておく。これを図2右に示す。「アリペイは、中国で最大のECサイトを運営する阿里巴巴集団(アリババ)の金融部門が独立したもので、70以上の国と地域、8万社以上の加盟店に導入されている。ユーザー数は4億5000万人を突破し、1日の平均取扱件数は1億件以上。アリペイでの決済は、スマートフォンアプリ「アリペイ」を立ち上げて、2次元コード(QRコード)を読み込んで行う。レストランでの飲食や店舗での買い物のほか、公共料金の支払いも可能。自動販売機、小さな個人商店、露店でも導入されており、スマホさえあれば現金は必要ない。アリババグループが展開しているさまざまなライフスタイル密着サービスや金融サービスとつながり、決済を入り口とした巨大なプラットフォームを形成している。」[20] また、シェアバイク、シェア電動自動車、滴滴車といったシェアエコノミーをも、取り込んでいる。

モバイル決済業務の年間利用回数は、前年比85.82%増の257億1,000万回、金額は、同45.59%増の157兆5,500億元であった。インターネット決済業務の利用回数は、同26.96%増の461億7,800万回、金額は、同3.31%増の2,084兆9,500億元であった。支付宝(Alipay)、微信支付(WeChat Pay)、百度銭包(baifubao)等第三者決済機関の普及に伴い、2016年の非銀行決済機関によるインターネット決済業務は、同99.53%増の1,639億200万回、金額は、同100.65%増の99兆2,700億元に達した。[21]

スマートフォンを個人の端末として、さらに、ネットでクラウドにつながっている。そして、AIを搭載したエッジコンピューティングとクランドコンピューティングが完成される。華為は、Huawei Kirin 970 AI対応 Chipを発表し、その最終製品は世界に先駆け2017年10月16日に発売された。Chip製造はTSMC 10nmを使っている。[22]

 

 さらにその先を予見すると、図3に示すようにユーザーインターフェイスの革新が起きる。図3は、図2における時間軸を将来に展開したものである。現状及び近未来において、デバイスは社会インフラ、産業インフラ、国防インフラの中核を成している。更に、インターフェイスが、GUI(Graphical User Interface)からNUI(Neural User Interface)[xiv]に置き換わると、人の脳がコンピュータに直接つながり、人自身の能力拡張もコンピュータと同様に指数関数的に進化することとなる。簡単に表現すれば、半導体=神経細胞=脳 という構図である。もはや、半導体は「産業の米」ではなく、「世界の神経」となる。BCI(Brain Computer Interface)、BMI(Brain Machine Interface)は、既に実用化されており、脳からの信号を直接読み取り、マウスコントローラーや身体麻痺患者への適用が行われている。[23]

 

 

2.中国政府が半導体産業を支える動機及び現状について

図4左は、電子デバイス産業の階層構造(産業チェーン)を示す。最上部に位置するキーデバイスは、社会インフラ、産業インフラ、国防インフラの要となる。米国のICT有力企業がこの階層に位置する。例えば、ビック5[24]と呼ばれるアップル、アルファベット(グーグル)、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、フェイスブックなど。次の階層には、台湾、韓国といったシステムチップ或いはスマートフォン製造、ファウンドリ、ファブレスが来る。その層を追い越そうとしているのが、中国である。アセンブリ、テスティング、EMSの拠点としてのみならず、ファウンドリ、ファブレスの存在感を増しつつある。そして、中国ITのテンセント、アリババは、時価総額世界5位と8位に2018年1月31日時点でなっている。[25]

また、完成品のプロバイダーとしても華為は、Appleを抜き世界第二位となっている。[26] 日本は、部品供給、製造装置、材料の供給元として、最下層に位置している。勿論、その装置或いは材料が無ければ成り立たない完成品も存在しているので、最下層であるからといって、軽視するのは良くない。

図4右は、かかる状況において、キーデバイスを、直接供給できない経済単位(国、地域、会社)、中国は、どのようなリスクを抱えているかを示している。

リスク1 先端製品のキーデバイスを海外メーカーに握られている。スマートフォン、自動運転、AI、IoT、ドローン等といったインフラに大きく関わる製品群は、自国では供給できない。

リスク2 将来のキーデバイスを開発する基盤、能力が無い。海外のコントロール下に置かれる。

リスク3 製造装置、材料が、先端製品のボトルネックとなりかねない。

リスク4 既存のルールは、もはや、役に立たない。先端開発製品は、社会ルールをも、覆えす可能性がある。

 

2017年時点での中国の製造テクノロジー開発と半導体製造投資の現状を、以下に述べる。表1は、中国半導体製造テクノロジー開発状況である。中国において、量産に用いられるシリコンウェハーのサイズは、主に6インチ、8インチ、12インチである。一般的には、6,8インチは「レガシー」、12インチは「マチュア」「最先端」とされる。そして、量産上の効率化の点で6インチ工場の8インチ化が行われ、8インチを用いた高耐圧素子(LCD driver, OLED driver, Power MOS, IGBT, BCD等)、センサー(CIS, 指紋センサー、MEMS等)が、開発、製造されている。SMICにおいては、携帯用の指紋センサーが大きく量産を伸ばしている。12インチ量産における最先端ロジック製品は、SMIC 28nmテクノロジーで量産するPolySiON/HKMG[xv]技術であり、リーディングカンパニーである台湾TSMC、韓国Samsungが10nm製品を出している現状では、2世代の遅れを生じている。また、SMICでは、中国における最初のfinFET[xvi]技術を採用した14nmを現在開発中であり、2018年に量産を予定している。その為に、破格の人員採用を行っている。一方、2018年には、台湾からの独資であるTSMC 南京工場が立ち上がり、finFET 16nmを中国内で初めて量産する予定となっている。メモリーにおいては、2D NAND FlashでSMIC 2Xnmが2017年量産に入っている。3DNAND Flashでは 武漢にあるYMTC社が、32層品の試作を成功させ、64層品の製品サンプル出荷を2018年に予定している。

大規模投資と工場建設について、表2示す。中国半導体産業で特徴的な点は、計画発表時からの変化を許容することである。外資系以外で、発表時から予定通りと目されるのはHLMCである。それ以外は、予定の遅れ、名称の変更、幹部の変更等といった変化が生じている。メモリーにおいて、Innotron社はDRAM開発、量産の為に設立された。中国においては、メモリー専業製造企業は存在していなかった。設立の背景は、中国における政府系も含めたデータセンターの需要が大きくなっており、そこで大量に使われるサーバーのメモリーが他国製(韓国、米国、日本)であることは、セキュリティ、中国製造2025の点で問題があるとされる為である。[9]

CISにおいては、リーディングカンパニーのソニーにはかなわないもののBSI製造が既にHLMCとXMCによって行われている。BSIは、FSIに比べて工程数、設備、技術において負担が大きいが、高感度であり中国産の低中位スマートフォンに搭載される主力となっている。

計画通りに立ち上がれば、中国は、2020年には一通りのLSIが自国で需給できる能力を備えることになる。

また、中国政府が力を入れているのは、半導体設計、製造のみならず、それを支える半導体装置、材料も中国内で調達できるようにすることであり、現在では、AMEC社が中国内のみならず、エッチング装置を台湾、日本にも輸出している。ウェハー工場も8インチのみならず、12インチ工場、例えばZing Semiconductorも既に立ち上がっている。

 

上記のような活発な中国の非常に活発な動きに対して、2017年1月に、PCAST(大統領諮問機関)から報告書「半導体における米国のリーダーシップとイニシアチブを確保するために」が提出された。このワーキンググループは、インテル、クアルコム、JPモルガン・チェースの経営トップなどからなる。半導体を「ロボットや人工知能(AI)など次世代技術の基盤ともいえる重要性を持つほか、国防技術においてもカギを握る、米国としては他国に優位を譲るわけにはいかない分野」と規定。中国の産業政策が健全な市場競争をゆがめることに警鐘を鳴らし、必要なら対抗措置を取るべきだとした。[27]

そして、かつて、日本半導体に大打撃を与えた通商法301条の中国に対する適用調査が始まっている。トランプ米大統領は8月14日、中国による知的財産権の侵害などを対象に、通商法301条に基づく不公正貿易の調査開始を指示。米企業が中国への技術移転を求められるケースなどを詳しく調べ、不当と判断すれば制裁措置の発動も検討する。通商法301条は、米大統領に関税引き上げなどの制裁権限を与えている。米通商代表部(USTR)が不当な貿易制度がないかを調査し、「クロ」と判断すれば相手国と協議に入り、さらに解決できなければ報復措置を科せる。[28]

また、中国系企業による半導体企業買収、及びその試みが以下のように行われ、米国政府の動きで阻止されるようになってきている。

OmiVision (買収成功) :2015年4月30日に、中国の投資コンソーシアム(Hua Capital Management、Citic Capital Holdings、GoldStone Investmentなどのファンドを会員とする組織)がイメージセンサチップメーカー米OminiVisionを19億ドルで買収した。

ISSI(買収成功) : 2015年6月末、中国のファンドコンソーシアム、UphillがISSIに対してCypressよりも高い値段で買収を提案した。ISSIの株主はUphillに売ることを決めた。[29]

マイクロン(買収失敗): 中国の半導体大手、紫光集団(北京市)は2015年7月14日までに、米半導体メモリー大手のマイクロン・テクノロジーに買収を230億ドル(約2兆8400億円)で提案したことを紫光幹部が明らかにした。中国の習近平指導部は3月、「中国製造2025」と呼ぶ製造業の振興策を公表し、半導体を重点分野の一つに掲げていた。紫光による買収提案はこうした国家戦略に沿った動きだ。紫光は習国家主席の出身校でもある名門大・清華大学傘下の国有企業。半導体チップの開発に専念するファブレス(工場無し)の経営形態をとり、主にスマートフォン(スマホ)用のシステムLSI(大規模集積回路)を手がけてきた。[30] しかし、マイクロン側に米国政府による反対が予想されるとして拒絶された。[31]

ルミレッズ(買収失敗) : 2016年1月、フィリップスは、米国政府からの審査が入ったことを理由にゴースケールキャピタル(中国)とのルミレッズ売却契約を取下げ。 2015年4月ゴースケールキャピタルは、フィリップスから、発光ダイオード(LED)を手がける子会社ルミレッズ(カリフォルニア州の半導体開発・製造拠点を通じて米国展開)の株式の80.1%取得で合意していた。[31]

独アイクスロン米国法人(買収失敗) : 福建宏芯投資基金(Fujian Grand Chip Investment Fund)   2016年5月、FGCは、パワー半導体向け製造装置メーカー、アイクストロンを買収することで合意。独経済省は一度認可したものの、同年10月に認可を取り消し、審査を再開。また、米大統領が、同年12月にアイクストロンの米子会社の買収計画の禁止を命令。これを受けて同年12月、FGCはアイクストロンへの買収提案を取り下げると発表。[31]

米ラティス・セミコンダクターズ (買収失敗) : 中国政府と関係のある投資会社キャニオン・ブリッジ・キャピタル・パートナーズが米半導体大手ラティス・セミコンダクターズを買収すると2016年11月に発表していた。買収額は13億ドル。その後、対米外国投資委員会は、ラティス買収の中止を勧告していた。この問題で、トランプ米大統領は2017年9月13日、国の安全保障上の理由から買収の阻止を指示した。ムニューシン米財務長官は、買収計画の安全保障上のリスクとして、キャニオンへの「知的財産の移転の可能性」や「この取引を支援した中国政府の役割」を挙げた。[32]

 

中国は、上述したように自国内に一貫した半導体産業チェーン構築に、邁進している。そして、既に半導体バリューチェーンを自国内(先端製造)とグローバル(レガシー、マチュア)に持つ米国では半導体におけるリーダーシップを確保するために、中国企業による半導体企業買収を阻止する動きが出ている。半導体におけるリーダーシップは、industry4.0, society5.0で代表される次世代の社会、産業、国防のインフラ整備のリーダーを意味している。逆に出遅れると、世界一を誇る日本の自動車産業[33] にしても競争力を落とす事となる。事業モデルも技術と同様に常に進化しており、半導体においては垂直統合から水平分業に移った[34]とされるが、常にトップを走るインテルは垂直統合(先端製品)であるし、サムソンも垂直統合を保っている。

では、日本は先進国として半導体製造を確保するべきなのか、半導体産業のバリューチェーンは一国(或いは一経済単位)で内部完結的にそろえるべきか、それともグローバル展開に委ねるべきかについて、日本の半導体産業を取り巻く現状と問題点について整理をする。

 

3.日本半導体産業の現状と問題点について

表3に、半導体売上企業トップ10の過去からの推移を示す。1993年は、6社が日本企業であった。2017年には東芝一社となっている。近年は、メモリーの需要が旺盛で、DRAM、3DNANDの価格上昇により、サムソン、ハイニックス、マイクロンが順位を上げた。東芝は、昨年と同順位に踏みとどまっている。これは、DRAMを持っていない為に、セット販売ができない為と思われる。又、ロジックでは、クアルコム、メディアテックが順位を下げており、アンドロイド向けCPUの中国企業(Hisilicon等)による競争激化も背景にあると思われる。

このように日本の半導体製造は、後退の一途を辿り、他国のファウンドリ、LSIを多用することとなる。

経済産業省が進めている図5に示すConnected Industries [35]は、以下のように記載されている。「IoT、ビックデータ、人口知能、ロボット等の第4次産業革命技術を使った製品・サービスの創出が求められている。 様々な繋がりにより新たな付加価値を創出する「コネクテッド・インダストリーズ」が重要であり、またサイバー空間とフィジカル空間が高度に融合したSociety 5.0を形成していくことが必要。」[36] 即ち、IoT, ビッグデータ、人口知能、ロボット・センサーの技術的ブレークスルー及び「超スマート社会」の産業リンケージであり、Society5.0とも深くつながっている。これらは、すべて半導体を核とした以下の産業チェーンから成る。

 

半導体装置/半導体材料半導体製造・設計基幹ソフトウエア産業用端末・個人端末製造アプリケーションソフトウエアシステムサービス。

 

そして、IoT, ビックデータ, 人口知能, ロボット・センサーに用いられる半導体製品群の中で将来に渡って、一番付加価値が高いのはやはりAIチップである。

それぞれに使われる半導体を整理して以下に示す。

IoT : Internet of Things 物と物同士がインターネットによってつながる。必要とされる半導体製品は、センサー、通信用IC/LSI、電源IC、MPU、高度な応用ではAIチップ、CPU、GPU、FPGA等が必要となる。

ビックデータ : データセンターが主なハードウエア投資となり、データサーバーが多量に使われる。データサーバーには、DRAM、Flash、CPU、GPU、通信用IC/LSI、電源IC、場合によりAIチップ等が要求される。

人口知能 :  AIチップそのものであり、スーパーコンピュータ、クラウド・エッジコンピューティング、データセンター、ロボット、車等に搭載されていく。AIチップの開発競争は、次世代の覇権争いそのものである。AIチップの進化は、社会、産業、国防インフラの進化そのものとなる。「自動運転車」「Industry4.0」「予知保全」「デジタルヘルス」「スマート農業」といった、それぞれの産業において新しい時代を拓くと目されるコンセプトは、AI技術の発達とその応用拡大の上に構築されていると言っても過言ではない。[37]

ロボット等 : 核となるのはAIチップである。CPU、GPU、MPU、 各種センサー、通信用IC/LSI、電源IC等。

AIチップ開発が、種々半導体の中でもとりわけ重要である。これからのすべてのインフラの土台と成り得る事、既存のコンピュータ及び半導体を駆逐する可能性が大きい事、市場性が十分にあり、開発競争は激化している。2018年における主な開発企業は以下である。

非ノイマン型 (脳を模したニューラルネットワーク型)

IBM: TrueNorthを2014年に科学雑誌Scienceに発表。メモリにPCMを使い開発中。最先端半導体ファウンドリGlobal Foundriesと強い関係を持っており、且つ、サムソン、TSMCといったグローバルバリューチェーンも使える。

Intel: 自社最先端半導体工場を持つ。半導体開発、製造において、常に上位に君臨し続けている。

HP,ユタ大学: メモリにReRAMを採用したISSACを開発中。自国内にGlobal Foundries、Intel(ファウンドリ)がある。且つ、サムソン、TSMCといったグローバルバリューチェーンも使える。

NEC,東京大学: ルネサスでは、先端半導体は製造できない。海外ファウンドリ依存。

産業総合研究所,パナソニック:先端半導体製造は、海外ファウンドリ依存。

東芝、デンソー、東北大学等 : 先端半導体製造は、海外ファウンドリ依存。

ノイマン型(既存の製品GPU、FPGA、DSP等をAI用に適性化を図っている。)

Google:TPU(Tensor Processing Unit)を既に、推論処理用にデータセンターで実用化している。学習処理用はCloud TPUがある。自国内にGlobal Foundries、Intel(ファウンドリ)がある。

富士通: DLU(Deep Learning Unit)を開発中であり、2018年に出荷予定としている。最先端半導体製造能力無し。海外ファウンドリ依存。

MobileEye : EyeQ  ADAS(Advanced Driver Assistance System:先進運転支援システム)や自動運転車向け画像認識チップ。

NVIDIA: GPUをAIチップへとアーキテクチャー、ソフトウェアで進化させて製品化。

Microsoft: HPU(Holographic Processing Unit)を開発。DSPをAI用に進化させている。

Intel: サーバー用CPU、FPGAのAI関連処理へ適性化を図っている。

Qualcomm

Huawei:最新スマートフォンに自社開発AIチップを搭載し、画像識別、翻訳機能を強化している。TSMCをファウンドリとして使用。2018年には中国大陸内にてTSMCが16nm製造工場が量産を開始する。

 

このように、日本においてもAIチップ研究開発は、行われている。日本の企業及び研究機関は、最先端半導体(28nm以降)の試作、製造は、海外ファウンドリ(台湾、韓国、米国等)に頼らなければならない。

しかし、他社は、自社或いは自国内関連企業に最先端製造拠点を持っている。中国企業であるHuaweiは、SMIC、HLMCの28nmが既に使える環境にあり、今年末或いは来年には、14nmfinFETが使えるようになる。又、TSMCの南京工場が2018年中に立ち上がり、16nm finFETが試作、製造できるようになる。

 

バリューチェーンを自国内に持たないグローバルチェーンの場合の弊害は、特に、他社に先駆けて行う新製品開発、試作、初期量産においては、グローバルチェーンにしか頼れないのは、自らがコントロールできない遅延を生じ大きなリスクとなる。以下に機会損失の事例を示す。

 

事例1.ソニーVR 過度な「供給不足」[38]

PlayStation VR国内初動が5万台強の理由 中村彰憲氏   立命館大学映像学部 教授

ここで、中村は、以下のように指摘している。「PS VRは従来のゲーム機とは製品アーキテクチャにおいて全く違った部品や製造工程を伴う。さらに高性能のLSI、各種センサー、有機ELディスプレイなどの部品自体(1)、初期生産では不良率が高くなる(初期における部品の歩留まり問題)傾向にあり、必要な部品を納期通りに入手することが困難になる。さらにこれら高機能の部品をグローバルに調達し、生産工程の組立過程に組み込まなければならない。」

ソニーのこの製品は、「VRが存在するライフスタイルの普及を実現するデバイス」と位置付けられているが、供給不足の為に競争相手が追いつき名乗りを上げて来ている。

事例2. 「日本からは最先端チップは生まれない。」[39][40]

清水洋治氏  テカナリエ

既に「日本からは最先端チップは生まれない。」と指摘する声もある。韓国、台湾、米国から最先端スマートフォン向け10nm製品が出荷されつつある現状において、日本からは先端10nm以降の製品が出される気配がない。(2017年5月26日現在)

「では日本はどうだろうか……と見てみると、1社でチップセットを形成できているメーカーもなければ、メーカー間をまたぐ“黄金の組み合わせ”というチップセットも存在していないのが実情だ。」

日本は、スマートフォンを中国からの輸入に頼っている。[5][6] 日本ではスマートフォンが、作りにくい環境下にある。それは単にコストの問題ではなく、キーデバイス(CPU, AIチップ)供給の問題にあり、自社でこれらを供給できる日本メーカーは存在しない。中国では、Qualcommが現地ファウンドリを使い製造を行っているし、Huaweiは自社供給が可能である。

事例3.  AIへの取り組み [41]

産業技術総合研究所 人工知能研究センター AIRCの戦略とAIを取り巻く諸課題について 平成29年3月14日 産業技術総合研究所 人工知能研究センター長 辻井潤一氏は以下のように述べている。 出遅れている日本のAI研究開発において、欧米、中国にどうキャッチアップしていくかが大きな課題である。総務省、文部科学省、経済産業省とそれぞれの省が、AIに取り組んでいるが、縦割り、組織間の壁の弊害がある。また、日本での人材流動性の無さ、自前主義、多様化環境の無さ、失敗できない社会構造などもAI研究開発の遅れの原因としている。

この事例は、日本におけるAIチップ産業バリューチェーン構築が急務であるはずのAIRCが、競合に対して出遅れており構築が難しいというジレンマを示している。

CEATEC2017において、高性能クラウド型計算環境を2019整備予定、半導体チップ設計予定(クラウドとエッジコンピューティング)との報告があった。設計の後の開発試作及び製造において、上述したグローバルチェーンの問題に遭遇することは明白である。台湾、米国、韓国、中国にある最先端半導体製造ファウンドリは、基本的には経済原理によって顧客を区別している。つまり、製造規模、価格、将来性、技術(特に歩留りの高さ、作り安さ、立ち上がりの早さ等)によって、ファウンドリにとっての顧客のコストが異なる。しかし、経済原理のみならず、如何にファウンドリと常に近い関係にあるかによっても異なってくる。民族系同士の親和性によって、コストとスピードにおいて差があるのは事実である。アメリカのみならず中国の事例と比較しても、ファウンドリに依存する日本の半導体製品開発、製造は高コストや立ち上がりに要する時間において、不利で競争力を落としてしまうこととなる。

事例4.自動車産業の自動運転(ADAS)、電気自動車(EV)へのパラダイムシフト

日本の得意とする自動車産業は、ADAS、INFOMATIVE、EVにより、スマートフォンと同様に、産業用端末・個人端末製品と同様に位置づけられるようになる。中国は、自動車産業へ参入し、自国内での育成を行っている。海外企業の独資展開を好まず、国内企業との合弁を強いている。また、ボルボの買収等を行っている。内燃機関の開発、製造においては、海外との技術差は埋まっていない。しかし、今後の主流と目されるEVは、今までの車作りとは異なり、むしろ、PCやスマートフォン或いは家電製品に近い製造工程であることで、家電会社も参入し産業構造が変わると見られている。[42] 掃除機、家電メーカーであるダイソンが、EV参入を表明している。[43] 即ち、中国がPCやスマートフォンで、世界一となった手段が自動車製造においても再現される可能性がある。そして、ADAS、INFOMATIVEが本格化すると、増々、情報端末に近づく。車の次にこの手段が適用されるのは、ロボット製造であろう。中国のスマートフォン製造が、大きく飛躍した理由は、組み込みパッケージ[44]によるところが大きい。例えば、マクロニクス、Qualcommのチップパッケージである。次に向かうところは、自動車産業である。

つまり、日本にとっての2018年現在の屋台骨とされる自動車産業の構造自体が、EV、ADAS、INFOMATIVEという半導体製造、開発を核とした新産業構造によって、駆逐されてしまう恐れはある。

 

一方、半導体産業バリューチェーンの底辺である半導体製造装置及び材料においては、日本は好調を維持している。特に上述した中国の新工場建設という旺盛な需要により、半導体製造装置が希望納期通りには入らない、又、シリコンウェハーの供給が間に合わず、直ぐに入手できないという事態が発生している。中国が国内に半導体産業チェーンの構築を、目指す理由の一つとなっている。

しかし、最先端半導体用の製造装置及び材料は、半導体の進化に先んじて進化、提案し続けなければ競争力が保てない。以前は、日本の半導体製造会社の開発状況に応じて要望を取り入れて進化を続けてきた。しかし、日本国内の半導体製造会社の開発が、世界をリーディングする実力が無くなってしまった現在では、世界に求めることになる。そこで、各メーカーは、IMEC(ベルギー)、Albany semiconductor consortium(米国)といった世界的な研究機関への参入やTSMC、サムソン、Intelというトップ企業との関係構築が不可欠となり、グローバルな対応をしなければならない。東京エレクトロン、スクリーン・セミコンダクター・ソリューションズといった上位企業は、グローバル対応が可能であろうが、中堅、下位の企業は難しい局面を迎えている。

 

. 追い風の中国半導体環境下での日本の半導体振興に向けて

日本において、28nm以降の最先端ロジック工場が日本国内に存在しないことは、上述したように大きな問題となる。日本半導体産業はどうすべきかであろうか。

第一に、国内に競争力のある半導体製造拠点を持つことである。FinFET世代(22nm、14nm、10nm)の量産、そして7nm以降の開発量産対応可能な300mm/450mm[xvii]ファウンドリの、国内構築が望ましい。また、国内顧客をサポートする為の、先端製品企画、設計グローバルカンパニーの創設が併せて望ましい。これらにより、地理的、コミュニケーション、民族系という面において有利となり、日本国内顧客の製品開発ループが加速され、且つ、深い信頼関係による相互戦略が可能となるだろう。

中国の半導体関連の人件費は高騰しており、幹部エンジニアの人件費はもはや日本以上となっている。そこで、中国の半導体産業は、人材を台湾、韓国のみならず、日本にも好条件で求め出している。もしも、日本において、半導体製造において何の施策も行わなければ、もはや日本での半導体製造が行える人材は居なくなってしまうだろう。

また、中国は、2018年現在は、先端装置、材料において、日本、米国に依存している。日本に国内工場ができれば、それらの調達及びベンダーとの協調関係においても、日本国内工場は有利となる。特に450mm半導体製造装置は、ASMLのEUVL[xviii]以外は完成されており、日本ベンダーと国内半導体拠点との協調により有利に展開が可能である。米国、韓国、台湾、中国での450mm半導体製造投資が、活発化する前に製造拠点を日本国内に設けるべきである。

日本には、欧米やBRICsで勝てるセットメーカー・アプリケーションプレーヤー(半導体を搭載した最終セット製品)が存在している。例えば、トヨタ、デンソー、ホンダ、日立、パナソニック、ソニー等。张汝京博士が主張しているCIDM(Commune Integrated Device Manufacturer)という概念の適用が、日本にはふさわしい。市場の異なる5つや10の会社が集まって、先端ファブを創るのは容易となる。投資分担、製品をお互いに供給、資金的圧力が減少し、資源共有、顧客が固定的で、ファブの稼働率が保障できる。

第二に半導体装置製造においては、今後の半導体製造工場増加に対応する為に、すべての能力をあげる必要がある。特に、レガシー半導体製造装置の中国国内製造、部品調達を志向することにより、価格競争力、装置供給能力を高めることができる。また、中国現地の半導体装置メーカーが、世界で台頭する前に現地との協力関係を構築することも必要である。現地の半導体装置メーカーの必要性が薄らぐ効果と、米国、欧州装置メーカーに対する競争力を上げることができる。

第三に半導体材料製造についてであるが、300mmウェーハは、信越、SUMCOの日本の2強状態にあり、IoT、AIに向けて供給能力が足りず工場を増強している状況である。中国内においては、国家プロジェクトである半導体産業の育成に向けシリコンウエハー工場設立、稼働が活発になっている。今後、徐々に現地製品が立ち上がり、採用が増えていく。2018年時点で、日本のウエハーメーカーは良い位置にいるが、中国生産展開を視野にいれておいた方が良いであろう。

 

 

 

5.謝辞

著者は、2017年度中国経済経営学会全国大会において、質疑応答を通じ意見交換をさせて頂いた方々に感謝致します。特に、渡邉真理子先生、中川涼司先生に、深く感謝致します。

 

 

 

 

参考文献

[1] CRDS 「中国製造 2025」の 公布 に関する国務院の通知全訳 2015年7月15日 https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2015/FU/CN20150725.pdf#search=’%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E8%A3%BD%E9%80%A0%EF%BC%92%EF%BC%90%EF%BC%92%EF%BC%95′ (2017/8/1)

[2] http://ee.ofweek.com/2017-08/ART-8120-2816-30160280.html (2017/10/01)

[3] http://www.eefocus.com/embedded/386801 (2017/10/01)

[4] インダストリー4.0:ドイツが描く第4次産業革命「インダストリー4.0」とは?http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1404/04/news014.html (2018/02/20)

[5]成田の輸入額 最高更新 1月、15%増スマホなど増加 2018/2/20付日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO2710243019022018L71000/   (2018/03/01)

[6]https://www.semiconportal.com/archive/blog/insiders/oowada/140409-smartphone.html)(2018/03/01)

[7] 「日本再興戦略2016-第4次産業革命に向けて-」が閣議決定された。(平成28年6月2日)http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/ (2017/12/01)

[8] http://news.searchina.net/id/1572151?page=1 (2018/03/21)

[9] 金堅敏、産業高度化を狙う中国製造2025を読む 富士通総研経済研究所 研究レポート No.440   http://www.fujitsu.com/jp/Images/no440.pdf (2018/03/21)

[10] The Wall Street Journal. – ‎2017‎年‎7‎月‎31‎日

中国が狙う半導体覇権、米中ナショナリズム対決 (2017/8/1)

http://jp.wsj.com/articles/SB10961650382794263540104583300922975089526

[11] 東芝、半導体売却でWD・鴻海と交渉開始 銀行団に説明=関係筋(2017/8/5) http://jp.reuters.com/article/toshiba-honhai-idJPKBN19W0WB

[12] 「損失は堂々と公表を」 KKRジャパン・斉藤会長  官民ファンドの実像

日本経済新聞 電子版 (2017/8/6)

http://www.nikkei.com/article/DGXMZO19549150S7A800C1000000/

[13] 世耕経産相、東芝の半導体売却「政府の介入あり得ない」(2017/6/27)   http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL27HL9_X20C17A6000000/

[14] 清水洋治 この10年で起こったこと、次の10年で起こること(16):ムーアの法則は健在! 10nmに突入したGalaxy搭載プロセッサの変遷 (2017/8/10)

http://eetimes.jp/ee/articles/1705/26/news010.html

[15] 小島清、雁行型経済発展論・赤松オリジナル 世界経済評論 3月号 P8(2000)

[16] http://www.sangyo-times.jp/article.aspx?ID=2162 (20180328)

[17] 三重野文健 世界经济文汇2017年第1辑 P180

[18]https://www.nikkei.com/article/DGKKZO13584810S7A300C1KE8000 (2017/10/01)

[19]http://eetimes.jp/ee/articles/1706/28/news020.html

この10年で起こったこと、次の10年で起こること(17):微細化の先導役がPCからモバイルに交代――先端プロセスを使いこなすスマホメーカー (1/3) (2017/8/10)

[20]http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1707/03/news028.html (2017/8/10)

[21]https://www.fmmc.or.jp/ictg/country/china.html

モバイル 通信事業者大手3社、NB-IoTの取組みを本格化 (2017/08/10)

[22]http://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/event/1078883.html

HuaweiのAI内蔵CPU「Kirin 970」はスマホの進むべき道を示す重要な製品だ(2017/10/21)

[23] http://business.nikkeibp.co.jp/atclh/NBO/mirakoto/wellness/h_vol15/ (2018/03/28)

[24] 強すぎる米IT「ビッグ5」 NQNニューヨーク 松本清一郎

2017/5/13 5:46日本経済新聞 電子版

https://www.nikkei.com/article/DGXLASGN13H02_T10C17A5000000/ (2018/03/28)

[25]https://www.huffingtonpost.jp/foresight/tencent-alibaba_a_23347275/ (2018/03/21)

[26]https://www.cnbc.com/2017/09/06/huawei-has-surpassed-apple-as-the-worlds-second-largest-smartphone-brand.html  (2017/10/01)

[27]http://www.nikkei.com/article/DGXMZO153 94830X10C17A4000000/ (2017/10/01)

[28]http://www.nikkei.com/article/DGXMZO15394830X10C17A4000000/http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK13H0C_T10C17A8000000/?dg=1&nf=1 (2017/10/01)

[29]http://blog.newsandchips.com/2015-07-23-23-28.html (2018/03/28)

[30] https://www.nikkei.com/article/DGXLASGM14H2U_U5A710C1MM0000/

(2018/03/29)

[31]http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/tsusho_boueki/004_haifu.html

産業構造審議会 通商・貿易分科会(第4回)‐配布資料 (201803/21)

[32]https://www.cnn.co.jp/business/35107254.html

中国系企業による米半導体の買収、トランプ大統領が阻止2017.09.14 (2018/03/21)

[33]https://www.nikkei.com/article/DGXKZO23116200U7A101C1EA1000/ (2018/03/21)

[34]https://www.nikkei.com/article/DGXKZO23116200U7A101C1EA1000/ (2018/03/21)

[35]http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/shin_sangyoukouzou/015_haifu.html

産業構造審議会 新産業構造部会(第15回)‐配布資料 (2018/03/28)

[36]http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/tsusho_boueki/004_haifu.html

産業構造審議会 通商・貿易分科会(第4回)‐配布資料) (2018/03/28)

[37]http://www.tel.co.jp/museum/magazine/015/report02_01/)(2018/03/29)

[38]http://www.famitsu.com/guc/blog/108583/13074.html (2017/10/01)

[39]http://eetimes.jp/ee/articles/1705/26/news010.html (2017/10/01)

[40]http://eetimes.jp/ee/articles/1708/09/news013_2.html (2017/10/01)

[41]http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/shin_sangyoukouzou/pdf/014_06_00.pdf#search=%27%E7%B5%8C%E7%94%A3%E7%9C%81+AIRC%27 (2017/10/15)

[42]https://www.huffingtonpost.jp/shinrinbunka/ev-car-economy_a_23255037/ (2018/03/28)

[43]http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/032000807/ (2018/03/29)

[44]https://www.nikkei.com/article/DGXLASDX13H24_T10C16A5FFE000/

台湾メディアテック、中台連合で脱スマホ 車向け開拓 2016/5/14 0:30 (2018/03/21)

[45] http://news.mynavi.jp/news/2017/08/03/031/   (2017/10/01)

 

[i]日本の成長戦略、科学技術基本計画には、以下のように記述されている。

日本の成長戦略

「日本再興戦略2016-第4次産業革命に向けて-」が閣議決定された。(平成28年6月2日) http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/ (2017/10/01)

「戦後最大の名目GDP600兆円」の実現を目指す。「第4次産業革命」 IoT、ビッグデータ、人口知能、ロボット・センサーの技術的ブレークスルーを活用する。資料には、「IT」という単語がおよそ150回登場するが、「半導体」「集積回路」「LSI」は全く出てこない。

また、第5期科学技術基本計画 平成28年1月22日閣議決定 五カ年計画 2016-2020

http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/index5.html (2017/10/20)

以下が主眼となる。

世界に先駆けた「超スマート社会」の実現 (Society 5.0)

■世界では、ものづくり分野を中心に、ネットワークやIoTを活用していく取り組みが打ち出されている。我が国ではその活用を、ものづくりだけでなく様々な分野に広げ、経済成長や健康長寿社会の形成、さらには社会変革につなげていく。

■サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合した「超スマート社会」を未来の姿として共有し、その実現に向けた一連の取り組みを「Society5.0」とし、更に深化させつつ強力に推進。

■サービスや事業の「システム化」、システムの高度化、複数のシステム間の連携協調が必要であり、産学官・関係府省連携の下、共通的なプラットフォーム(超スマート社会サービスプラットフォーム)構築に必要となる取組を推進。

 

資料において、「半導体」「集積回路」「LSI」は全く出てこない。「デバイス」という単語が一回登場する。

半導体産業の重要性に対する、政府の認識が疑わしい。社会インフラ、産業インフラ、国防インフラを支えるIoT、ビックデータ、AI、ロボット・センサーは、半導体が無ければ成り立たない。キーデバイスを海外から買わなければいけない状況は、改善されないとすると、「成長戦略」も「Society5.0」も半導体というアキレス腱によって足元を掬われてしまうだろう。

 

[ii] CPU: Central Processing Unitの略。中央演算素子。

[iii] GPU: Graphics Processing Unitの略。画像処理を行う素子。相当する日本語無し。

[iv] APU: Accelerated processing unitの略。CPUとGPU、および周辺回路を一つのチップに収めたもの。相当する日本語無し。

[v] 3DNAND:三次元NAND型フラッシュメモリー。

[vi] SiC:炭化珪素を基板に使った素子。

[vii] 28nm:半導体デバイスの技術ノードの一つ。数字が小さい程、高密度で高性能となる。他、14nm、10nm、7nmなど。

[viii] 中国半導体装置メーカーによる海外への輸出。AMEC社が、エッチング装置を台湾、韓国、日本へ輸出をしている。

[ix] ムーア則:Moore’s Law「半導体の集積密度は18か月から24か月で倍増する」という経験則。米国の半導体メーカー、インテル社の創設者の一人、ゴードン=ムーアが提唱。

[x] 「レガシー」:Legacy。過去に先人達が開発していた技術、製品群。

[xi] 「マチュア」:Mature。成熟期を迎えた半導体製造技術を指す。

[xii] CUI:Character User Interface。 コンピューターの操作において、命令(コマンド)や情報の表示を文字によって行うユーザーインターフェース。コマンドベース。コマンドインターフェース。コマンドラインインターフェース。

[xiii] Graphical User Interface。コンピューターのディスプレー画面上で、アイコンや画像を多用し、マウスなどのポインティング-デバイスによる直感的な操作を可能にするユーザーインターフェース。

[xiv] NUI:Neural User Interface。BMI (Brain Machine Interface)、BCI(Brain Computer Interface)等の手法により、神経と機械、コンピュータを直接つなぐユーザーインターフェース。

[xv] PolySiON/HKMG:トランジスタのゲート絶縁膜及びゲート材料の種類。HKMGは、High-k Metal Gateの略。

[xvi] finFET:新構造のトランジスタ。魚の鰭に形が似ていることから命名された。1989年に久本大氏がIEDMにて報告したDeltaトランジスタが原型。

[xvii] 300mm/450mm : 半導体製造に用いるシリコン基板のサイズ。最先端技術は、直径450mmのシリコン基板で量産する予定。

[xviii] EUVL:半導体製造に用いられる露光装置。EUV(Extreme Ultra Violet)波長を用いる最先端技術で、コスト面も含め量産実用化の難易度が高い。

 

この投稿へのコメント

コメントはありません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA